世界が色を失う前に(散文)

誕生日に寄せて──。



春の匂い、夏の香り、秋の気配、そして冬の銀世界。
季節が鮮やかに移ろうたびに、時は私から色を奪う。

空が青く見えるうちに、よく見ておこう。
木々が緑に見えるうちに、つくづく眺めておこう。

目を閉じ、頭を垂れ、想いを馳せる。
もう、桜が、薄桃色には、見えなくなったから。


世界が白い靄に包まれるとき、私は何を思うだろう──。
そのとき、私は、世界の優しさに気づくのだろうか。


雪が融け、風が春の匂いを含む。
花々が咲き乱れ、夏の香りを醸す。
一雨ごとに湿る土が秋の気配を告げる。
そして最も凍てついたその日、空から白い妖精が降りてくる。

──目を閉じても感じられる移ろいを、大切にしよう。
その日を恐れずに、今を愛おしもう。
私の世界が色を失うその前に。









生きることを楽しく思えない時期がありました。何で生きるんだろう、と悩んだ時期がありました。そして──私をこの世に送り出した両親を、恨んだ時期もありました。


まるで真綿で首を絞められるような息苦しさをもって、少しずつ緩慢に失われていくものに、追い縋ろうとしました。何で私だけ、なんて嘆くこともしばしばでした。


同じ想いを知る者たちが、何故、伴侶を得たがり、子孫を残そうとするのか、解りませんでした。何故、同じ苦しみを、後々に残そうとするのか、と。けれど。


みな、同じ想いを超えてきているのですね。みな、同じように、理不尽に与えられる痛みに耐え、その上で己の幸せや喜びを見出そうとしている。そして、己と想いを分かちあうひとを求める──。


それは、老いて失われる前に、繋げたい想いなのかもしれません。「生きる」とは、しんどくも楽しいことだ、と。


私は、弱い体を持つが故に、人より早く老いているだけなのかも。人生折り返し、と強く感じた5年前に、そう思うことで楽になりました。そして、あれもこれも、と欲張っていた時期がとっくに過ぎ、ひとつ選ぶ毎に二つ三つのことを手放すようになりました。けれど、それは、「諦めること」、ではなく、「身を軽くすること」、なのかもしれません。


いつか解放される日のために、身綺麗にいたしましょう。──今は、負け惜しみかもしれませんが、本心で言える日がきっと来ると信じて。


今日、生まれて初めて、両親に「産んでくれてありがとう」と告げようと思います。「──熱でもあるの?」と言われそうだけれど(笑)。




追伸。自分へのお誕生日プレゼントとして、ここで子猫を飼うことにいたしました。某所さまの猫ちゃんがあまりにも可愛いので、拙宅でも、と。最近こちら側の書き込みをサボることが多いので、自重する意味も籠めて(笑)。


2007.07.17.  速世未生 記


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